10月27日に、都内で「沖縄、台湾、そのはざまの尖閣―中国の覇権・侵略を阻止せよ」集会が開催されました。メインは宮崎正弘氏(評論家)、仲村覚氏(日本沖縄政策研究センター理事長)、王理明氏(台湾独立建国聯盟日本本部委員長)、藤井厳喜氏(国際政治学者)の講演。なお講演に先立ち、この前日に結成された中国の少数民族弾圧や覇権主義に対抗する国際連帯組織、自由インド太平洋連盟の各国代表と米国から来日した満州亡命政府の3人の代表者が紹介された。
集会は最後に、
一、中国の覇権主義と侵略、そして人権弾圧と戦い続ける。
一、日本民族の分断を招く、国連先住民族勧告の撤回をオールジャパンで取り組んで実現させる。
の二つを決議し、閉会した。以下は各講演者の講演要旨。
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ラビア・カーディル氏(自由インド太平洋連盟会長)
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宮崎正弘氏(実行委員会代表)
今現在、安倍首相は北京に飛んでニコニコ笑顔を振りまいている最中。まずわが同盟国であるアメリカの動向を先に捉える必要がある。トランプ氏が仕掛けている米中貿易戦争、これは大英断だ。ケント・ギルバート氏も近著でそう述べている。衆知のように、中国は米国から知的財産権の盗用、強制的な特許権の移転等々、経済侵略を仕掛けている。さる10月4日にペンス副大統領が演説した中に出てくるが、トランプ政権の狙いは、中国の野心を潰すことだ。具体的には、「メイドインチャイナ2025」、すなわち、2025年までに中国が経済的覇権を握るということ。これにたいしてトランプ政権は、ヘゲモニーは中国に絶対渡さないと、そしてやれるうちにやってしまおうというのが今の状況。
今現在の米中貿易戦争は、関税の掛け合いをやっている。ただ、これは序の口で、次にくるのが、金融戦争。これは中国経済に相当なインパクトがあるだろう。その次に控えるのが、通貨戦争。これらを米国は徐々に仕掛けていくだろうと思われるが、それに対して中国は今、後ずさりしている、というより困り果てている。困ったときには手のひらを返して、ニコニコと日本にすり寄ってきているというのが今の中国の態度。日本のメディアは貿易不均衡の問題だとして騒いでいるが、これは前述のように、米中戦争の序の口であって、やっと戦いの火ぶたが切られた段階だと認識したらよい。
ここで古い歴史を取り上げたい。紀元前のペロポネソス戦争とポエニ戦争だ。前者はスパルタとアテネとの戦いで、56年もかかって両者とも力尽きた時に新しい大国、アレキサンダー率いるマケドニアが出てきた。ポエニ戦争はローマとカルタゴの戦い。これは3回で118年かかっている。最後に、非武装国家であるカルタゴはボロボロに負けて殲滅されてしまったという結末。
今般のアメリカの決議は、トランプ個人の考えではない。中国に対する厳しい態度はトランプ政権よりも議会の方が強い。議会でも共和党より民主党の方が過激なことを言っている。それに輪を掛けて、アメリカのメディア、日ごろはトランプをたたいているニューヨークタイムズやワシントンポストもその他も中国に対して厳しい視線を送っている。つまりこれはアメリカ国内にコンセンサスが生まれたのだ。日本のメディアは楽観的だが、推測するに、短くて50年、長ければ100年くらい掛かって決着がつくだろう。これは日本以外の国はわかっている。
マレーシアでマハティールショックがあった。これは中国べったりだった前ナジブ政権があまりに癒着や汚職が絶えないことに国民がノーを突き付けた。つまり中国ノーと言ったのだ。これが次にパキスタンに波及した。パキスタンと中国は50年来の軍事同盟で仲良しのはずが、中国からこれ以上お金を借りるのはやめようと言っていた、まさかのクリケットのチャンピオン、イムラン・カーンという人が首相に当選した。次はモルディブだ。やっぱり中国べったりのヤミーンという大統領がいたが、中国が相当肩入れしたにも関わらず、負けた。反中国を掲げた無名のソリという候補だ。つまりアジアにおいて、反中国ドミノが起きている。この動きはこれからネパールや中国国内のウイグル、南モンゴル、旧満州…などに波及していく可能性。「協調から競合へ」とトランプが言っているのに、安倍首相は「競合から協調へ」と言っている。これに対してアメリカが今後どういう反応を示すだろうか。本日の米大手紙の社説は穏やかなものだが、日中の親密化を米国は非常に危惧しているという状況だろう。
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仲村覚氏
「誰が沖縄県民を先住民族にしたのか」
仲村覚氏(日本沖縄政策研究センター理事長)
今年4~5月に配信された中国のニュース番組は以下のように報道していた(要約)。
<琉球民衆は今、日本からの独立を固く決意している。実際、琉球が日本の領土に組み込まれた時、琉球民衆は強烈な抵抗をした。第二次大戦中、日本は壮絶な戦闘を行い、琉球は戦時中、日本の犠牲になったのである。そしてその数字は戦後公開されたものよりはるかに多かった。長い間琉球はずっと日本政府と闘争してきた。またこの歴史をさらに多くの人に知らせようとしてきた。しかし、島上での実力においては、琉球は常に独立することはできなかったのである。いま、日本政府の再三の不祥事、各種情勢の不振のもと、琉球では再度独立の嵐が起きている。今回の非難の対象は、安倍その人である。結局何といっても、この日本のすることなすことが、琉球で独立が叫ばれる主要な原因となっている。憲法改正、スキャンダルなど安倍は琉球民衆の攻撃の的である。琉球の独立の嵐に対し、日本側は声明を出した。その中で武力を使っての解決方式を採用する可能性がある。これは日本にとっては普通のことである。しかし日本にある現在の外交危機と国内の矛盾という二つのプレッシャーの下、日本政府はそのような過激な行為は行えないであろう。日本にとってはそれは自滅を招くような方法である>
中国は、沖縄を憲法改正阻止の基地にしようとしているのが読み取れる。知事選の結果はこのシナリオに一歩近づいたといえる。中国による沖縄への工作はいつからあったのか。それは終戦直後から始まっていたのだ。それを象徴する1960年代の中国の切手がある。そこには「中日両国人民は団結して共通の敵である米帝国主義に反対をしよう」とある。当時の中国の統一戦線は日本に伸びていた。これが70年安保闘争だ。切手の中央には男性二人が並んで勝どきをあげる様子が描かれているが、そのうちの一人が掛けている襷には、日本語で「沖縄をかえせ!」とある。1960年4月28日、沖縄県祖国復帰協議会が発足したが、その背後には中共の手があったということ。沖縄復帰と言えば、誰も反対できない。日の丸を振ろうといえば誰も反対できない。だが、その目的はベトナム戦争の真っ最中に沖縄復帰をさせて、日米安保破棄の目論見があったということだ。1964年の中国共産党新聞1月27日付には、毛沢東の言葉として以下記載されている。「中国人民は固く日本人民の偉大なる愛国闘争を支持する」「日本の領土沖縄の返還要求、日米”安全保障条約”の廃止、等々。すべてこれらは日本人民の意思と願望を反映している。中国人民は心から日本の正義の戦いを支援します」。毛沢東は明確に、”日本の領土、沖縄”と言っている。わが外務省はこの資料をもとに、中国に反論すべきだ。
中国の工作は、沖縄の復帰前は復帰をさせて日米安保を破棄させる。復帰後は、沖縄を独立させて同じく日米安保を破棄を狙っている。このことをよく理解すべきだ。この8月にジュネーブの国連人種差別撤廃委員会に行ってきた。対日審査の前に対中審査もあって、ウイグル、南モンゴルの人権状況に関して委員会は中国非難をした。しかし実は日本も非難されている。琉球民族(沖縄県民)は先住民族にもかかわらず、何度勧告を出しても日本政府はそれを認めないと。私は、そうではなく、沖縄県民は日本人だということをわざわざ言いに行ったのだ。これと前後して、参議院議員であり、社会大衆党の委員長である糸数慶子氏がスピーチした。琉球新報によれば、「沖縄の人々に対する差別の事例として、米軍普天間飛行場の移設に名護市辺野古の新基地建設をはじめとする基地問題をあげ、日本政府に差別的な政策を止めさせ、先住民族としての権利を守らせるよう訴えた」そうだ。私のスピーチの冒頭部分はこうだ。「私は沖縄で生まれ育った者ですが、沖縄で生まれたすべての人々は日本人として生まれ、日本語で会話をし、日本語で勉強し、日本語で仕事をしてきた。ゆめゆめ日本の少数民族などと意識したことはありません。沖縄は第二次大戦後、米軍の占領支配下におかれましたが、沖縄では激しい祖国日本への復帰運動が起こり、わずか27年後には、日本に返還されました。祖国復帰運動の最大の情熱の根源は、沖縄の子供たちに日本人としての教育を施したいということでした」。
これまで、人権差別撤廃委員会から4回の対日勧告が出されているが、当の沖縄の人たちはそのことを知らない。私が沖縄の議員に説明しても理解するのに1年かかる。琉球新報8月31日付には、「国連人種差別撤廃委員会は30日、対日審査の総括所見を発表した。日本政府に対し、沖縄の人々は、『先住民族』だとして、その権利を保護するように勧告をした」とあった。私の必死の訴えにもかかわらずまた勧告が出てしまった。委員らの認識はこうだろう。仲村覚は琉球人だけれども、日本政府が1879年琉球を滅ぼし、占領して以来、皇民化教育により、言語も奪われ、アイデンティティも破壊され、同化政策を進めた結果、一部琉球人でも自分を日本人だと思い込んでいる人もいると。そんな可哀想な琉球人だと判断したのだ。
立憲民主党の枝野幸雄党首は、同党沖縄県連立ち上げの際に、日米安保堅持と言っている。立民の沖縄県連会長は有田芳生氏だ。有田氏は糸数氏と仲がいい。ジュネーブで見た時、いつもとなりに座っていた。有田氏はヘイトスピーチ反対、糸数氏は沖縄県民の先住民族運動。二人の共通項は、反差別運動。これは日米安保は堅持するが、全国の7割を占める沖縄の米軍専用基地は差別じゃないか、オスプレイの強硬配備は差別じゃないか。辺野古の新基地建設は差別じゃないかと。左翼の戦略は反安保闘争から反差別闘争に変わったのだ。このロジックは、沖縄の保守をも囲い込む統一戦線といえる。これを論破する理論武装が必要。沖縄県は辺野古の埋め立て承認を撤回したが、裁判では必ず負ける。だが彼らは負けても構わない。負けたらまた差別されたと国連に行くのだ。政府への抵抗は国連に行く材料を作っているだけとも言える。辺野古移設の賛否を問う県民投票を来年の4月までに行うことが決まった。これに対して、石垣市は反対の意見書を可決。その他のいくつかの市町村も反対している。自民県連は県議会では議席が少ないために可決を許したが、他の市町村でボイコットして阻止を目論む。だが私が推測するに歯抜けになろうが、彼らは5億5千万の税金を使ってやるだろう。やってまた国連に行くだろう。
誰が沖縄県人を先住民族にしたか。それは部落解放同盟に行きつく。IMADR(反差別国際運動)という団体がある。その所在は部落解放同盟の中央本部と同じだ。このホームページにはこうある。「日本にも人種差別があります。その影響を受けているのは、部落、アイヌ、琉球・沖縄の人びと、日本の旧植民地出身者とその子孫、そして外国人・移住労働者です」と。沖縄県民は全く与り知らぬことだ。彼らが人種差別NGOネットワークという組織を使って、国連に「沖縄県民は先住民族だ」として訴えに行っている。人種差別NGOネットワークの加盟団体には、やたら韓国や北朝鮮系の団体や同和問題の組織の名前が多い。その中の沖縄の団体名をみると、4つの団体があるが、沖縄の人に聞いても誰も知らない。にもかかわらず、彼らが勝手に沖縄を代表して国連に行って私たちは先住民族ですと10年、20年言い続けた結果、国連委員は騙されたのだ。IMADRの代表理事は武者小路公秀氏(国連大学元副学長)。武者小路氏は北朝鮮で一番信頼されている日本人だそうだ。彼らが沖縄県民を先住民族にしようという目的は、先住民族の権利には土地の権利がある。その権利でもって米軍基地を追い払おうということだ。
沖縄の重要な歴史が二つある。沖縄戦と祖国復帰だ。この二つは沖縄県民だけの歴史ではなく、日本国民全体の歴史だ。沖縄戦は沖縄県民だけが戦ったわけではない。47都道府県から沖縄戦に参戦しているのだ。そして沖縄県外出身者が6万人以上亡くなっている。戦後沖縄は占領されたが、実はそれで日本は分断国家にならずにすんだ。米軍の第一次本土上陸作戦は九州南部から、第二次作戦は関東地方からだった。しかし沖縄でのダメージがあまりに大きく、それを諦めたのだ。米軍に占領された沖縄が、戦争も経ずにたかだか足掛け27年、講和条約から20年で祖国復帰できたというのは、人類史上まれにみる奇跡と言える。これは1000年、2000年語り継いでいくべき偉大な歴史だ。ここで重要なのは誰がどのような思いで、どのような情熱をもって活動して復帰が実現したのかということ。この史実が封印されてしまっている。それは何を隠そう、沖縄のリーダーが沖縄の子供たちに日本人としての教育を施したいという思いだったのだ。その代表が屋良朝苗氏(初代沖縄県知事)だった。
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王理明氏
「米中対決と台湾の進むべき道」
王理明氏(台湾独立建国聯盟日本本部委員長)
1960年に台湾青年社が創立された。創立者は、王育徳(王氏の父)、留学生だった黄昭堂、廖春栄、蔡季霖、黄永純、傅金泉ら。10年後には台湾独立聯盟となった。本部をアメリカにおき、米議会に働きかけながら、台湾人の状況を世界に訴え続けてきた。今現在の台湾は自由で平和と思うかもしれないが、戦後、中国国民党が入ってきて台湾を植民地にした。台湾人は言論の自由、行動の自由などすべてを奪われて戒厳令の中で非常に苦労したのだ。国内でちょっとでも反政府的な言動をすれば、否、その兆候を見受ければ、捕まえて虐殺するなどということが行われた。1947年の2・28事件では、3万人の有望な台湾人が虐殺された。よって彼らは海外で活動する以外なくなったのだ。金美齢氏や駐日大使までやった羅福全氏や許世楷氏、そして黄文雄氏という方々が、命を賭け、私利私欲を捨て、自分の人生は台湾に住む台湾人のために捧げるということを決意して、活動してきたのが台湾独立運動だ。
では台湾とは、台湾人とは何か。台湾は元々中国の一部ではない。台湾と中国はずっと別々の歴史を歩んできた。今、中国は台湾が自分の領土の一部と声高に言っているが、中国人は昔、台湾を見たこともなかったのだ。地図上ではすぐそばにあるように見えるが、台湾海峡はドーバー海峡の4倍の長さがあり、海流も激しい。中国人は昔は航海技術もなく、そもそも水を怖がる民族であり、海の向こうの台湾に興味も関心もなかったのだ。むしろ中国の歴代王朝は、四方から攻めて来る異民族との戦いを繰り返し、漢民族の王朝になったり、ツングース王朝になったり、モンゴル王朝になったりしてきた。ともかく、台湾とは縁もゆかりもないというのが実情だ。それでは台湾自身はどうだったかといえば、統一国家のない、無主の島だった。原住民が5000~1万年前から住んでいて、それぞれのテリトリーで、それぞれの言語を持ち、それぞれの文化で暮らしていた。
大航海時代になってオランダやポルトガルやスペインが統治するようになったが、それは全島に及ぶものではなかった。だいたい台南のあたりまでだ。初めて中国王朝と台湾が結びつきをもったのが、清朝の時代。台湾に清国の役所が置かれた。といっても全土に行政機構が網羅されたわけでなく、インフラ等積極的な開発は行われず、他国に占領されるのを防ぐためだったのだ。日清戦争後統治した日本によって、全島津々浦々に初めて行政機構が網羅された。台湾人が共通の言葉をしゃべれるようになったのは、日本時代。日本語によってだ。この時はじめて近代国家や法治国家の何たるかを身に着けることができた。こういう歴史的経緯からして、戦後日本が台湾を放棄したとはいえ、中華民国や中華人民共和国に返還されるというのは筋が通らない。戦後どの国でも民族自決の原則にのっとって独立した。アフリカも中南米もだ。でもなぜか台湾人の意見だけは誰も聞いてくれなかった。だからしょうがなく、海外に出た台湾人が台湾独立運動を行って、中華民国=中国国民党による一党独裁国家からの独立を目指したのだ。
今現在の台湾の状況は、民主進歩党(民進党)の蔡英文氏が総統。国会も民進党議員が過半数を占めている。民進党とは、一党独裁国家に対抗して、1986年に発足した台湾人による政党。もう一つの政党である国民党は、正式名が中国国民党。蒋介石が中国からやってきて、台湾を支配した時の党の名前のまま。一度中国人に占領された国がどうなるかということを想起すれば、そこから民主主義を作り直すとか、別の政党をつくるとか言論の自由を取り戻すとか、これは本当に大変なこと。民進党が作られたのは、海外の活動家の働きかけによって米議会が動かされ、蒋政権に影響を与えた結果。戒厳令も解除され、台湾人を要職につけるべきだということで、蒋経国のときに李登輝氏を副総統に就けた。その後、蒋経国の急死によって李登輝氏が総統となり、国民党の主席という立場を使って、国民党の中から一党独裁を排除し、民主主義体制を敷いた。
李登輝氏は1961年、私の父が自宅を事務所にして独立運動をやっていた時期にひそかに来たことがある。残されている日記には、父が李登輝氏と台湾の将来について語り合い、意気投合したとある。二人はともに台北高等学校出身で、日本教育を受けた世代。どうやったら自分たちの台湾を取り戻せるか、これを忍耐強く知恵を使って辛抱強くやり続けた結果、今台湾は民主的な制度を持つ国へと生まれ変わった。2016年の選挙で大多数の国民によって、蔡英文総統はじめ立法院の議員も選ばれた。しかし今蔡英文氏の人気が落ちていると言われる。支持率は20%台。日本でも大丈夫かという声を聞く。
10月20日に台北で大規模なデモがあった。喜楽島聯盟という独立派が集まって作った団体が主催したのだ。喜楽島とは台湾の別名で、この中には李登輝氏(元総統)、陳水扁氏(元総統)、彭明敏氏(元総統府資政)などが参加している。彼らはデモで何を要求したか。台湾独立の是非を問う国民投票を実施して欲しい。そして「台湾」の名でオリンピックに出場できるように欲しいと蔡英文政権に対して抗議活動した。主催者発表で12万人が集まった。欧米メディアの報道は、「台湾独立派が声を上げた」と書いている。産経の報道は、「独立派と蔡英文政権とに溝」との趣旨。しかしこれは溝ができているわけではない。蔡英文氏が言えないことを代弁しているのだ。今現在、蔡英文政権の支持率は確かに低下しているが、だからといって今度は国民党に政権交代することはもうない。台湾国民は民主主義を守る民進党しか選ばない。では蔡英文氏はなぜ言いたいことが言えないのか。台湾の国名を変えるとか、憲法を変えるとか、独立とかを口にすればすぐさま武力攻撃すると中国が公言しているからだ。2005年の反国家分裂法の条文にある。蔡英文氏も野党時代は勇ましいことを言っただろう。だが、総統になったということは、背中にピストルを突き付けられている状況といえる。2300万人の国民を抱えて危険を冒すことはできない。私は彼女の気持ちをよく理解できる。そういう中で、独立派の先輩たちが、蔡英文氏を応援するために自分たちが代わりに声を出してあげようということなのだ。これは台湾の民主主義の成熟度を現している。
そして、蔡英文氏は独立派の重鎮である陳菊氏(前高雄市長)を昨年、官房長官に、また台南市長だった頼清徳氏を首相に就けた。このように独立派を政権の中に取り入れることでアピールしている。では台湾はもう大丈夫なのか。いや全然大丈夫ではない。その置かれている状況は危ういといえる。沖縄、尖閣に比べると、台湾は大きな島だが、一番危ないのがやはり台湾だ。沖縄・尖閣はなんといっても日本の領土の一部だ。ここに中国はちょっかいを出しても、習近平主席は安倍首相とは握手をするし、日本の実効支配下にあることは大きい。では台湾はと言えば、まず国としてカウントされていない。日本が承認している国家は196ヵ国あるが、その中に台湾は入っていない。国連加盟国は193ヵ国あるが、台湾は未加盟。WHOからもユネスコからもその他あらゆる国際機関に加盟できず台湾は国際社会から締め出されている。それはひとえに中国が怒るから。なお「台湾」や「中華民国」と名乗ることを禁止されている。私たち独立運動家はこの中華民国という名前から独立することを目指してきたので、こう言うのも嫌悪感があるのだが。その代わりに「チャイニーズタイペイ」という名前で、オリンピックや世界陸上その他の大会に出なさいとなっている。その際、「チャイニーズタイペイ」のマークを付けるが、付けなければ出場できないので、仕方なくつけているだけだ。
「チャイニーズタイペイ=中国の台北」とは、台湾人にとって屈辱的な名称だ。これもすべて中国の長期計画による。中国は台湾を侵略することを国家の目標として堂々と掲げている。その時、世界各国が非難出来ないように準備してきたのだ。外国から抗議が来たら、内政干渉だと。台湾など存在しない。チャイニーズタイペイだと。みんなそのマークを付けていたではないかと。中国という国はすごく長いスパンで計画を立て、実行する。台湾は今、かろうじて米国と日本の安全保障の枠組みの中で手をつないでいるので、中国は手出しできないでいる。今、韓国も北朝鮮も中国に逆らうことはできない。日本の周辺国で味方は台湾しかない。台湾が中国に侵略されてしまったら、中国の船舶も航空機も台湾から出発することになる。太平洋にも自由に出ていける。台湾海峡は日本のシーレーンだが、ここが中国の内海となる。そうなった場合、日本の船舶が通航できるかどうか、中国次第。ともかく、台湾を中国に取られたら、日本は一貫の終わり。そういう意味で日本と台湾は利害関係が一致している。
では米国の台湾政策はどうか。米国には「台湾関係法」(1979)があるが、これは中国との国交樹立に際し、台湾と断交する前に準備した法律。その内容は台湾が武力攻撃された場合、米軍が防衛する旨、明記されている。その3年後、レーガン大統領が「六つの保障」提起(1982)。これは台湾関係法を維持するということ。2016年に台湾関係法とこの六つの保障を確認し、上下両院で承認して明文化。2018年3月にはトランプ政権が「台湾旅行法」制定。これによって米国と台湾で高官同士が行き来できるようになった。これまでは米国内でさえ中国のご機嫌を取ることが価値基準だった。さらに2018年5月のリムパック(環太平洋合同演習)に中国軍を招くのをやめた。中国は蔡英文政権になってから、台湾と国交のある国に断交を迫り、中国との国交樹立を求めてきた。先日、ホワイトハウスはそのことに懸念を表明した。ホワイトハウスということがポイントだ。日本にとって台湾は生命線だ。地理的にも地政学的にも。なおその住民は日本精神を共有する人たちだ。最後に今後、日本が採るべき方策を提案したい。一つ目、台湾を国として認める。二つ目は台湾が国際社会に認知され、国際機関に参加できるように率先して働きかける。三つ目、日台外交の基礎となる日本版「台湾関係法」をつくる。こう言うと、中国が怒るんじゃないかと必ず言われる。だが、中国が怒るだろうことを敢えて一歩踏み出してやることが日本と台湾を守る道だ。
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藤井厳喜氏
「米中対立と自由アジアの興隆」
藤井厳喜氏(国際政治学者)
10月4日にペンス副大統領の演説があった。この重大性が日本では正確に伝わっていない。これは中共に対する宣戦布告といえる。その中身は、これまでの米国の対中政策が完全に裏切られたという結論。これは過去四半世紀近く、すなわちビル・クリントン政権、ブッシュジュニア政権、オバマ政権の期間に当たる。本来、共和党のブッシュジュニア政権時にいろいろと修正しておくべきだったはずだが、できなかった。
ブッシュ政権の考え方は、「congagement」。すなわち軍事的には「containment=封じこめ」だが、経済的には「engagement=関与」だと。投資をし、技術を移転し、世界の自由貿易体制に組み込んでいけば、中国はやがておとなしい国になるというもの。この間、中国の経済規模は約10倍になったが、それにつれて軍事的にも明らかに脅威になってきた。日本でもこのような希望的観測がずっとあった。田中政権による日中国交回復の時から、中国は共産主義体制だが、圧倒的に貧しい国であり、ある程度豊さを手にすれば自然と中産階級が増え、外国人との交流も盛んになって、情報が流入し、自由化が進むだろうと。しかしそんな期待とは裏腹に国が豊になればなるほど軍国主義が強くなっていったのだ。一帯一路は、19世紀以前の西洋国家がやっていた政策そのもの。演説では、ウイグル、チベット、南モンゴルなどの問題を取り上げているが、要するに外国を侵略しているということ。これを中国国内の人権問題だと捉える人もいるが、それでは問題の本質がわからない。実際は独立国家だったチベット、ウイグル、東トルキスタンなどの国に中国が侵略を仕掛けて占領したその状態がいまなお続いているということである。占領下だからこそ人権弾圧が行われているということ。同じ漢民族であっても、共産党に歯向かったり、自由や人権などということを口にすれば、たとえノーベル平和賞を受賞した劉暁波氏であっても、監禁され、病気となってもまともな治療を受けることもできず、死去せざるを得なかった。
トランプ氏いわく、過去四半世紀、中国経済を支援してきたのは我々だったのだと。反省だ。これを堂々と宣言したのが、ペンス演説。これを米中冷戦と呼ぶ向きがあるが、甘い。私が「米中新冷戦ーどうする日本」という本を書いたのが、5年前の13年1月。この時の予測はすでに米中はクラッシュコースということ。だが、当時は米政権はそれを自覚できなかった。2011年に米国はオサマ・ビンラーディンを殺害した。その場所はパキスタン。パキスタンは中国の同盟国。ビンラーディンは中国が匿っていたともいえる。なぜなら、中東でテロが起きる、米国内でテロが起きる、それによって米国は対テロ戦争に注力していった。いきおい中国の脅威に矛先が向かなくなった。そこには中国による謀略があっただろう。昨年11月、ISがほぼ壊滅し、アル・カイーダも残党のみとなって、いよいよ米国が中国問題に乗り出すということになってきたということだ。
米議会と行政府で作る通称「チャイナコミッション」がある。これは中国で何が起きているかを調べて、年次報告書を出している。ここがペンス演説の6日後、300ページ以上ある報告書を出した。そこにはチベット、ウイグル等での人権問題、環境問題に加え、臓器移植の問題まで踏み込んだ。ペンス演説のエビデンスとなっている。ここにきて中国共産党が人類共通の敵だということがはっきりしたのだ。
ペンス演説の中で、特に重要なのが、キリスト教徒が弾圧されているというくだりだ。その一節は、「2018年9月には中国共産党は中国における地下キリスト教会の最大なものの一つを強権的に閉鎖した。中国共産党政権は国中で十字架を破壊し、バイブルを焚書し、キリスト教徒を投獄している。いま、中国共産党はバチカンと合意に達したが、これは何と無神論者である中国共産党が中国におけるカトリックの枢機卿を任命する権利を得るというものである。中国のキリスト教徒は今、絶望の淵に沈んでいる」と。それに続けて、チベット仏教徒はこの10年で150人も焼身自殺していると。このキリスト教弾圧に触れたことがポイントだ。大部分の良きアメリカ人は良きキリスト教徒だ。特にトランプ政権の支持者は間違いなく、素朴で純真なクリスチャンだ。それが古代ローマの話ではなしに、21世紀の今日、同じクリスチャンに対する弾圧が行われているとなれば彼らは当然怒るだろう。実はペンス副大統領は7月26日、国務省が主催した世界宗教者会議でも演説をやっているが、その時はキリスト教の弾圧の話はあまりしなかった。これはここぞという時にとっておいたのかもしれない。
日本は9月26日に日米首脳会談があり、その際、米国の対中包囲網に全面協力すると約束した。その後、安倍首相は中国に飛んで微笑外交をやっている。その極め付けは、円と人民元のスワップ枠を10倍にする約束をしたこと。今、中国が一番困っているのが、ドル不足。これまでの中国経済の原動力は、海外から稼いでくる米ドルだった。そのドルを干上がらせるというのが、トランプ政権の狙いだ。これに真っ向から対立することを日本がやっていいのか。海外から日本の外交政策をみると矛盾しているように見える。これまで中国経済を支えてきたのは欧州ではドイツやイギリスだったが、さすがに今の中国の状況にちょっと腰が引けてきた。そして気づいたら、日本が中国の一番傍にいるということになりはしないか。これでは日米関係が怪しくなりかねない。安倍政権も不安定要素をかかえていると言える。一方のトランプ政権も厳しい立場だ。シリコンバレーのIT企業は総じて親中派だ。マイクロソフト、アップル、フェイスブック等々。彼らはトランプ氏の経済制裁に反対。だが、その反対を押し切ってトランプ氏は対中制裁をやっているのだ。
中国の経済発展パターンはもうおしまいだろう。そうなれば対外膨張したくてもできない。中国帝国主義の末路も近いかもしれない。習近平氏は強硬路線を取るしかない。いずれ、南シナ海で米中の衝突が起きるだろう。これによって中国は負ける。その際、日米間が密接に連携して対中包囲網を築けるかが問題。台湾は東シナ海と南シナ海の結節点。日本の防衛ラインは昔から大陸からの脅威に対して、日本列島と台湾をつなぐ列島弧を守ること。今後、日本の大企業がもう一度中国に投資するという話があるが必ず失敗するだろう。アメリカの経済状況はいま非常にいい。昨年12月、レーガン以来の大減税を断行した。これでアメリカの景気を良くして、それから対中経済制裁に入っているわけだ。今現在起きていることは、貿易摩擦などというせこい話ではない。これは中国が世界の覇権を米国から奪おうという戦いを仕掛け、米国が受けて立つということだ。よって中途半端には終わらない。