アメリカはアリゾナ州プレスコット市を舞台に、すべてを飲み尽くす炎の津波―森林火災に立ち向かう森林消防隊の知られざる実態に迫る。本作は事実に基づく。
自宅で森林火災発生の一報を受けた市森林消防隊の指揮官マーシュ(ジョシュ・ブローリン)は、バギー(消防隊の搬送トラック)を駆って隊員たちを拾い上げつつ現場へ向かったが、いざ火を抑えこもうとするときに、駆け付けた米農務省直轄のホットショット(精鋭部隊)に現場をさらわれてしまう。憮然としてその場をやり過ごすしかなかったマーシュたちだったが、結局ホットショットは火災を鎮火できずに、町に被害を出してしまった。自分たちなら被害を防げたと歯ぎしりするマーシュたち。
こういう経験からマーシュは自分たちもホットショットに格上げして欲しいと、市の消防署長であり、親友でもあるスタインブリンク(ジェフ・ブリッジズ)に依願する。市レベルでのホットショットは前例がなく、市長に掛け合うスタインブリンク。
そんな折、ある若者が森林消防隊員の応募でマーシュの元を訪ねてきた。マクドナウ(マイルズ・テラー)と名乗った男は、薬物におぼれ、窃盗を働き捕まって留置され、先日保釈されてきたばかりで、保護観察処分の身だった。以前付き合った女を孕ませた責任を取るとして、これまでの人生を改めて再出発する旨を誓い、採用となった。ただ、森林消防隊の日々の訓練は”地獄”と称されるほどのハードさであり、心身共のタフさが要求された。
いくつもの困難を乗り越えて、晴れてホットショットとなったマーシュたちプレスコット森林消防隊。市のランドマークであるグラニット山を冠して、新たに、「グラニットマウンテンホットショット」と命名された。彼らの目覚ましい活躍は今に伝わる。だがマーシュは、やがて発生したヤーネル火災現場へと向かう道すがら、彼の右腕であり、チームのキャプテンであるスティードに、指揮官を引退したい旨を切り出すのだった。
本作で描かれる森林消防隊員たちはタフである。そのシンボル的存在がジョシュ・ブローリン扮する指揮官のマーシュだ。外見もマッチョでイカツイが、指揮官としての知見や能力もさることながら、その使命感と責任感に基づく揺るがぬ信念こそ彼の本領であり、隊員たちから絶大なる信頼と尊敬を集めている。だが、これだけならマーベルのヒーローと大差ない遥か彼方の存在だが、彼は実は底辺から立ち直ってきた人間でもあり、親友であるジェフ・ブリッジズ扮するスタインブリンクには子供のようにその心の内を打ち明けてみせる。なお妻のアマンダ(ジェニファー・コネリー)とは仲睦まじいおしどり夫婦だが、口喧嘩をすればやり込められ、翌朝、自分から謝るという始末。結婚当初は、子供は作らないという二人の合意だったものの、アマンダが子供や家族を持つことの憧れを口にするようになり、益々思い悩むのだった。
一方、ヤク中やこれまでの自堕落な生活を脱し、生まれてきた娘と妻のため立派な父親になろうと必死に努力するマクドナウは、当初色眼鏡で見ていたチームメイトにも次第に受け入れられ、認められるようになる。ただ仕事を頑張れば頑張るほど、家族と会う時間が削られ、娘が懐かなくなるという矛盾を抱えていた。彼は機を見て建物消防へ移りたいという思いをマーシュに告白するが…。物語のクライマックスとなるヤーネル火災の現場において、彼がその目で見、その耳で聞き、最後に引き受けた運命とは何だったのか…。
人は誰も、我知らず誰かのために生きている。我知らず、背負っているものがある。長い短いの別なく、これを自覚するか否かで、人生の価値は決まるのだ。だからこそ、人生というこの二度とない時間を大切に真剣に生きなければならない。本作は、わが胸深くに刻まれた。