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(西村幸祐氏)
さる4月25日、正論を聞く集いが行われ、ジャーナリストの西村幸祐氏が、「アジア情勢と日本の危機」のタイトルで講演しました。以下その要旨
安倍内閣の支持率の低下が報道されているが、モリカケ問題は足掛け1年以上、加えて自衛隊の日報問題、財務次官のセクハラなど噴出してきた中での数字。30%台後半だとか、30%ギリギリなどばらつきはあるが、いずれにしても不支持率が支持率を上回ったと発表している。しかし逆に言えば、あれだけ叩かれてこの数字であるというのはむしろ立派だし、トランプ米大統領と似ているところがある。
トランプ氏の場合は、明らかに米メディアの世論操作の結果、支持率が30%だとか言われていたが、最近はメディアによっては50%という数字が出ている。ともかく、こういう数字に一喜一憂しないことが肝要だ。本質は何かを見極めなければならない。
先週、安倍首相が訪米し、日米首脳会談が行われた。会談で北朝鮮問題なかんずく拉致問題が取り上げられて、一般的な見立てとして会談後、内閣支持率は上がるだろうと言われていた。しかしそれが一向に上がらないという報道になっているが、それも当たり前。実際は非常に大きな成果のあった今回の訪米にもかかわらず、それをキチンと報道しているメディアがほとんどないのだ。
そもそも長期政権というのは、過去の例から言えば、支持率は30%台になる。かつて森内閣では一桁になった。あれもメディアによって仕掛けられた。神道政治連盟での「神の国」発言は典型だ。インターネット上の世論調査は、任意の時間帯にアクセスした人が投票する形式だが、ニコニコ動画の調査では、安倍内閣支持率は50%台後半。ツイッター上での調査では、80%台後半が出ている。また、財務次官のセクハラ問題で、麻生財務大臣は辞任すべきかという質問について、一般のメディアでは辞任すべきという人の方が多いが、アメーバTVでは辞任しなくてよいが多い。年齢層は10代~30代で辞任の必要なし、辞任すべきという声はだいたい60歳以上というデータが出ている。ここには明らかに世代間のギャップがあり、それは情報の取り方に起因している。
実は今、解散説がささやかれている。ただこれは政権の中枢からではなく、その周辺からの声。今現在、確かに安倍内閣の支持率が下がったのは事実でも、野党の支持率もまったく上がってないのだ。新たに国民民主党を結成するという希望と民進を足してやっと1%という具合。立憲民主党がせいぜい10%。そういう意味で圧倒的に安倍政権が支持されているということになる。数字に惑わされることなく、実際何が行われているのか、何が行われていないのか、どういう成果があるのか、それをどう評価するのかなどの客観的な視点を持つことが必要だ。
先週の日米首脳会談において、特にテレビ報道でひどかったのが、「日本は蚊帳の外に置かれた」というもの。金正恩が北京を訪問して、その後、南北首脳会談と米朝首脳会談が矢継ぎ早に発表されるという事態が4月頭に起きた。この時点で日本は蚊帳の外に置かれている、安倍政権は何やっているんだという声もあったが、それこそメディアに騙されている好例だ。実際は4月1日にポンペオCIA長官が韓国から軍用機で極秘に平壌に入って金正恩と会談し、これはその会談内容も含め、全部日本にも伝えられている。安倍首相が訪米する前にNSCの谷内局長が米国に単独で渡って、トランプ大統領、ボルトン大統領補佐官、ポンペオCIA長官から情報を得ているのだ。このことを踏まえておれば、何も驚くことではないし、今現在の日米関係を考えれば 「蚊帳の外」などという批判が出てこようはずもない。
地上波でよくコメンテーターとして出演する元共同通信の某氏などひどいものだ。ちなみに共同通信は日本で唯一、平壌に支局を持っている。だが、いまだかつて平壌電でこれといったニュースを配信したことがない。支局のある意味がわからない。ただこの前、共同通信が珍しくいいニュースを配信した。金正恩が核とICBMの実験を止めると発表し、これが世界平和に貢献するとして韓国では文在寅とともにノーベル平和賞かとおめでたい人たちがネットで書いたりしているのだが、その舌の根も乾かないうちに、新しい核施設が稼働を始めたというニュースだった。ただしそれは平壌発ではなく、カナダ発だった。
あともう一点、よく地上波で安倍政権批判のフレーズで、日本は圧力、圧力というばかりで、何も貢献してないじゃないかというもの。だが、ここにきて南北首脳会談や米朝首脳会談が決定されていった背景には、この1年間の日本の外交が支えていた実態があるのだ。昨年6月1日、日本海上で、カール・ビンソンとロナルド・レーガンの米空母2隻に日本の護衛艦ひゅうがとあしがらが参加して日米連合艦隊による合同演習を行った。そこには韓国は入っていない。そして同時に海底深くでは、潜水艦がにらみを効かせていたのだ。これ自体あまり報道されていないだろう。実は6月5日はミッドウェイ海戦の日だ。この演習が実施される75年前のこと。かつて干戈を交えた日米が連合艦隊を組んで東アジアの安全保障上の危機にくさびを打った記念すべき演習だったのだ。こういう評価をする評論家もジャーナリストもまたいないのが実情。
さらに昨年11月にも日本海で、日米連合艦隊による演習が行われたのだが、その時は、B-1戦略爆撃機が空母艦載機とともに上空を飛行している。もちろんミサイルや実弾を装填しての訓練だ。なおかつそれに先立つ昨年9月に日米が主導した北朝鮮に対する経済制裁が、国連安保理で採択され、実施されたのだ。こういうことが、今回の北朝鮮をめぐる一連の動きの背景にある。北としてはどうにもかわしようがなくなって、今年の1月1日急に路線変更をせざるを得なくなった。そして最初に習近平に泣きついた。それが3月26日の北京入り。当然これは米国も注視しているわけで、問題は日本がこれをどれだけ自分の問題として捉えられるか。
同時に今、南シナ海が非常に危ない。また台湾が危ない。つい先日も中国の人民解放軍は、空母遼寧を中心として一応空母打撃軍の形をとって台湾海峡で実弾演習をしている。そのあと、宮古海峡を抜けて太平洋に出て戦闘機の発着訓練を与那国の南方海域で行っている。またこれもさんざん米のメディアでは報じられて、日本では産経のみしか書いていないのだが、人民解放軍が2020年に台湾を武力侵攻するプランがあるというのだ。
こう見てくると、やはり日本は危ない状況にある。前述した日米連合艦隊による2度の日本海での演習だが、これが可能になったのは、実は安保法制が大きいわけだ。これによって集団的自衛権の一部行使が可能になった。海上自衛隊は垂直離発着のできる戦闘機F-35Bの導入を決めている。実現すれば、「いずも」にしろ、「かが」にしろ、実質空母になる。
そういったプランを日本はキチンと立てていて、もう20年くらい前から視野に描いているので、可能になっているのだ。それこそそういう先見性のあった当時の海上自衛隊幹部に感謝すべきだ。政治家は全くダメだが、軍人は大丈夫なのだ。ちゃんと考えている。
第一次安倍内閣が6年前の12月26日に発足して、我が国は今日までかろうじて持ちこたえているというのが実態といえる。だからこそ安倍首相は昨年の5月3日、9条改正のプランとスケジュールを発表した。その改正の中身についてはいろいろ意見があり、当の私も実は反対だ。2項を削ればいいだけの話で、9条の2など必要ないと思っている。しかし曲がりなりにも改正するプランを発表したのだ。するとここからモリカケに拍車がかかり、こんにちまで政権攻撃が続いている。
ただ反安倍勢力にしても今すぐ立憲民主党が政権を取るとは思っていない。そういう中で自民党の総裁選で安倍を下ろしたいというキャンペーンをメディアを中心に総力を挙げてやっているだけだ。これから何が一番大変になるかといえば、韓国の文在寅政権は、もはや北の出先機関と化している。南北朝鮮の停戦協定を終わりにすると発表しており、間もなく行われる南北首脳会談で平和協定を締結するということで南北が同意するだろうと報道されている。しかしのその実体は、北が韓国を飲み込む形での将来的な統一を視野に入れたものになるはずだ。同時に先だって金正恩が習近平に泣きつきに行ったというのは、朝鮮半島そのものがいよいよまた中華帝国の元に帰っていくということ。
第二次大戦後、幾度か世界秩序が大きく動いたことがあったが、もっと長いレンジで考えてみる必要がある。現在の東アジアの状況は、100年、200年という長いレンジで考えたときに起こりうる大きな地殻変動が起こっているということだ。
日清戦争以前は、宋、明、清と続く中華帝国がアジアで形成していた華夷秩序があって、その中に朝鮮半島はずっと入っていた。すなわち朝鮮はシナの属国であったのだ。それが日清戦争で日本が勝利することによって華夷秩序が崩壊し、朝鮮が独立した。そして講和条約である下関条約から123年後の現在、新たな華夷秩序が作られようとしているのだ。その証拠に中国の習近平は、つい先日”終身皇帝”という身分を手にした。国家主席の任期が連続2期10年との制限を撤廃した。
習近平はかねて「偉大なる中華民族の復興」を掲げてきた。新たな華夷秩序のための具体的な手段がAIIBであり、一帯一路である。一帯一路は平たく言えば、闇金と同じだ。周辺の国に金を貸して、返せなくなったら土地を分捕る。スリランカ、ネパール、パキスタンなどがすでにやられている。これを見てインドは今必死に対抗しようとしている。よって日印関係も益々重要になってくるが、安倍内閣の外交は、この5年間ずっとやってきている。
私が言いたいのは、今安倍攻撃をしているメディアはこれをわからないでやっているのではない。わかっているからやっている。要するに中華帝国の力を削ぐようなことはさせない。日本が自立した国家として力をもってもらったら困ると。なぜなら、日本が属国になれないじゃないかとの思いからだ。だからこその安倍攻撃であり、自衛隊への攻撃なのだ。
私のフェイスブック及び、ツイッター上で、米国で作られた1分間の動画をアップしている。それは米国の日常にある軍人に対する敬意を表す内容である。この私のアップした動画に対して元自衛官が以下のコメントを残している。こういう光景はアメリカで何回も見ています。本当にうらやましいと思ったと。なにしろ我が国ではPKO派遣の際に制服を脱げという議論があったくらいだ。
クリント・イーストウッドが監督した「15時17分、パリ行き」という作品がある。休暇中でタイトルにある列車に乗っていた空軍と陸軍の兵士2人とその友人である民間人の3人の米国人が銃による無差別テロを計画し同乗していたテロリストに戦いを挑み、逮捕に至らしめるという内容。私はこの映画を紹介するときに、日本人にはその良さが伝わらないのではないかと思った。劇中海兵隊の兵士がハンバーガーを買い求めにきて、店員である主人公がいつもお世話になっているからと代金をサービスするシーンがあるが、これは米国では日常の光景であり、軍人は映画館も無料だ。ことほど左様に軍人に対する敬意が払われているという話だが、わが国では逆のことが行われている。自衛隊員に対する人権侵害が。
そういう現実の中で、米国製憲法を一部であっても日本人の手によって改正する。なかんずく9条を真っ先に手を付けるということがいかに重要なことか。だからこそ、安倍攻撃が続いているという話だ。理由はそれだけで他には何もない。ただ近年では自衛隊への信頼度は増しているし、9条についても改正した方がいいという人のほうが多いという世論調査がずっと出ている。だからこそ必死になって阻止せんとしているのだ。
今後アジアはどこへ向かうか。先述のように華夷秩序が復活し、朝鮮半島がシナの属国のようなかたちで華夷秩序に入っていくという状況。そうなると38度線は停戦ラインでなくなり、対馬海峡まで下がってくる。そうであれあるほど日本にとって台湾が重要なポイントになってくる。だからこそ米国は台湾旅行法を民主、共和の別なく上下両院で全会一致で通過させ、トランプが署名して成立させた。この法律はあらゆるレベルのアメリカ当局者および台湾高官が米台を往来し、当局者と会うことを認め促す内容。今までは台湾の高官でも一民間人としての身分でしか米国米国を訪問できなかった。かつて米国は北京を承認するかわりに台湾関係法を作って台湾を自由主義陣営の一員として残した。それでも公務員の行き来は事実上禁止されていたのだ。それが今回の台湾旅行法でクリアされた。これは事実上の台湾の国家承認にほかならない。
1979年に米中国交正常化で一つの中国の代表が北京ということで、台湾を切り捨てた。これは元々はキッシンジャーが敷いた路線だったが、それが大きく変化するということになる。今後台湾に米海兵隊が駐留するということもありうるだろう。それは前述したように2020年に人民解放軍が台湾を武力侵攻するというプランの情報がすでに出ているわけで、それに備えて米国も動いているのだ。台湾に潜水艦を供与することも決定している。
また日印の関係も安倍政権以前と比べてはるかに密接になってきた。昨年、日印米3か国による海軍の合同演習「マラバール2017」が行われた。これは対潜水艦の訓練であり、日本からは、いずもが参加している。時々刻々の世界の動きに対して少なくとも、自衛隊は現実に向き合わざるを得ない。現実に向き合ってないのは、政治家とメディアだけだ。
そんな中で、今非常にいい兆候があるのが、沖縄だ。沖縄における地方選挙で立て続けに反安倍勢力が負けている。先だっての沖縄市長選、その前の辺野古を抱える名護市長選もそうだが、もっとも大事だったのが、石垣市長選だった。石垣島は宮古島と同じように第一列島線の要だ。南西諸島から台湾、そして南シナ海の南沙諸島までをつなぐ第一列島線はもともと人民解放軍が自国防衛のために設定した概念。第二列島線は日本列島の真ん中から伊豆諸島を通り、グアムに抜けるライン。
中国は今、第一列島線をいかに突破して、西太平洋で人民解放軍の海軍、空軍が活動するかということが重大な課題。先述したように、人民解放軍は与那国の周辺で空母艦載機の離発着訓練をやるなど着々とプランを進めている。そういう意味からして石垣、宮古への自衛隊配備が非常な重要性を持つ。そこにミサイル基地を構築することにより、第一列島線を通過する人民解放軍の艦船を壊滅することができる。このことは米国の専門家はもう何年も前から公言していることで、日本が中国の軍事力増強に付き合わなくて済む日本防衛の方法などと紹介している。実際この通り自衛隊は計画を進めている。自衛隊は現実としっかり向き合っている。向き合ってないのは政治家だが、それを選ぶ国民にも責任があるといえる。
今まさに正念場といえるのは、憲法改正が予定通りできるかということ、そして日本が主権国家としてこれから存続できるかはパラレル。西部邁氏は2010年の主権回復記念日の集会におけるあいさつで、日本が未だ主権国家にあらずと慨嘆した上で、主権回復がいかに困難かを力説した。敗戦から73年この方、総理大臣に就任した者で、憲法を改正すると言って就任したのはたった一人しかいない。こんなバカな国があるか。私は本当に信じられない。そしてそのたった一人に対して、メディアを総動員して総攻撃を行っている。
安倍首相が第一次政権発足から1年足らずで引きずり降ろされてのち、やはりもう一度、安倍晋三を総理大臣にしようと西部邁氏を中心に、私と富岡幸一郎氏で安倍氏を励ます勉強会を始めたのだった。
今から132年前に福沢諭吉が時事新報の社説に書いた「脱亜論」がある。当時の時代背景は、日清戦争の10年前であり、日本は朝鮮の独立を支援した。朝鮮の中でも開明派と呼ばれる人たちが出てきて明治維新を見習って、鎖国を解いて西洋列強と渡り合わなければならないとして、福沢の元を訪ねて来ていた。金玉均などがそうだ。しかしロシアがどんどん南下してきても李朝は何もできず、右往左往し、相変わらず清の属国のままで良しとしていた。
「脱亜論」の結論部分はこうだ。
<我が国は隣国の目覚めと文明開化を待ち、ともにアジアを発展させていこうなどと考える時間的猶予はないのである。むしろ、支那と朝鮮という仲間意識から脱出し、西洋の文明国、先進国とともに進まなければならない。支那、朝鮮に対しても、「隣国だから」と特別な配慮をすることなく、まさに西洋人が接するように国際的な常識と国際法に従って処置すべきである。悪友と親しく交わり、悪事を見逃す者は共に悪名を免れないものである。私は心の中で東アジアの悪友と謝絶するものである>
これは、要するに日本が旧弊を断ち切り、どんどん近代化を進めなければ、朝鮮半島と支那大陸に飲み込まれて一緒になって西洋列国に扱われてしまうという危機感が表れている。この10年後に日清戦争が起きているということは非常に重要だ。そして日清戦争の勝利によって、華夷秩序が壊されて朝鮮が独立できたわけだが、その後も相変わらずあっちへフラフラ、こっちへフラフラ。そして日露戦争後、日本は安全保障上の理由にせよ日韓併合という過ちを犯してしまった。そこには朝鮮半島がしっかりしてもらわないと困るという前提もあったが、欧米に押し付けられたという見方もできる。
これからの動きだが、もうすぐ南北首脳会談が行われて朝鮮戦争の終結を宣言し、平和協定を結ぶというプランが発表されるだろう。そして、愚かなメディアはこれでアジアに平和が戻ったなどと言うだろう。しかし大事なことは北は核を廃棄するとは言っていない。核実験を止めたと言っただけ。今までの核実験場を閉鎖するといっても、土砂崩れがいっぱい起きていてあれはもうすでに使えないものだ。もっともアメリカは重々承知だが。
ただ朝鮮半島の非核化という時に、そこに中国が入ってきて進められると、かつての6か国協議のようなことになって、形式ばかりが重視され、事実上の時間稼ぎでしかなくなる恐れあり。そうなればいずれ北は核保有国としての立場を鮮明にする。そして北が核保有国としての正当性をアピールしたときに韓国は私たちも核保有国にと言うだろう。そういう現実が遠からず起こりうるはずだ。
ここ2、3年で米国において公言され始めたのが、日本の核武装論で、当の日本では全く議論されていないにも関わらず米国の専門家の間では何人も出てきている。そういう時代になっているというときに、憲法9条に自衛隊を明記するくらいのことが通らないとすれば、それこそ真の危機である。