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世論迎合でない原子力政策を

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 読売新聞5月4日付解説面「編集委員が迫る」で、世界原子力協会理事長のアグネタ・リーシング氏へのインタビューが掲載されている。ポイントを突いた単刀直入の質問に、これまた泰然とした態度で的確でわかりやすい回答が述べられている。アグネタ氏は、スウェーデン最大の電力会社であるバッテンフォールの環境担当副社長を経て、今年現職についたようだ。スウェーデンでは過去半世紀において、原発推進から脱原発、そして再び原発維持というようにエネルギー政策が大きく振れては戻りした。その背景は何であり、そして今またなぜ原発維持へと舵を切ったか。インタビューには傾聴すべき内容が詰まっていた。以下主要な部分をピックアップしてみた。

―再び(スウェーデンが)原発維持へと回帰したのはなぜなのか。
「その後(スリーマイル原発事故後)、原子力に代わるエネルギー源の議論が始まった。『風力と太陽光で大丈夫』という意見もあった。だが無理だと分かってきた。(化石燃料の利用に伴う)温暖化への懸念もあり、国民は政府以上に原子力を支持するようになった。」

―チェルノブイリ原発事故ではスウェーデンも放射能汚染した。どう対応したのか。
「政府は非常に厳しい基準を定めた。人々は安心すると考えたからだ。だが、逆効果だった。かえって過剰な不安を募らせた。そこで基準を緩めた。」

―日本は1ミリSvが除染の目標値になった。
「私の経験から言えば、厳しすぎる。益より害が大きい。チェルノブイリでも住み慣れた土地に暮らせないことが、被曝よりも大きな健康被害をもたらした。様々な報告を読む限り、福島の放射線レベルは低い。この基準だと今まで健康被害が出たことはない。」

―住民の不安は根強い。
「スウェーデンと日本は似ている。どちらもきれい好きで、きれいな自然を守ろうとする。だから日本の人々の気持ちも苦しみも分かる。だが、非現実的な措置は無意味だ。」

―目を世界全体に向けたい。福島の影響はどうか。
「原発の安全に対する信頼は揺らいだ。しかし、事故に関する情報が増え、理解が深まるとともに、多くの国で原子力への支持は事故以前と同じ水準に戻っている。」

―業界の展望はどうか。
「明るい。多くの国が原発新設を計画している。エネルギーはどの国にも重要なのだ。チェルノブイリなど重大な事故を経験したり、影響を受けたりした国も原子力を支持している。」

―ドイツは脱原発の道を選択した。
「経済や技術というより、感情にまつわる問題になっているように思う。」

―ドイツの脱原発政策の行方をどう予測するか。
「もう数基は閉鎖すると思うが、その後新しい段階が来て、脱原発を見直すのではと推測している。」

―原発には使用済み燃料から生じる放射性廃棄物の処分という厄介な問題がある。
「問題は解決できる。容器に密閉すれば環境への拡散は防げる。使用済み燃料はプール40年ほど冷するから最終処分まで時間もある。」

―日本は原発輸出に乗り出そうとしている。
「日本の原子力産業は世界で高く評価されている」

―福島で事故を起こしたにもかかわらずなのか。
「その通りだ。日本の産業はその信頼性の高さを誇りに思うべきだ。」

 インタビューした大塚隆一編集委員がこう解説している。「彼女(アグネタ氏)は原発の利用拡大を図る国際的業界団体のトップであり、その発言は少々割り引いて聞くべきかもしれない。スウェーデンの事情は地震国・日本と異なるのも確かだ。だが、スウェーデンの人々がエネルギーの選択について、専門家を信頼し、現実的な議論を重ねてきたという話には、正直なところ感心した。この国のしたたかさも感じた。日本が学ぶべき点は多いと思う。」
 
 全く同感。

 3・11以降、日本はいわゆる原子力ムラの弊害が公になり、専門家が公然と原子力の有効性を唱えることが憚れる状況だ。それは無理からぬことであり、自業自得ともいえる。しかし時は待ってくれない。「エネルギーは、国家存亡、民族興廃を賭けた戦略物資である」(渥美堅持氏)それなればこそ、世界の専門家からの建設的な提言を封じる愚だけはくれぐれも避けなければならない。



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