(読売新聞9日5日付1面)
婚外子の相続差別に対する違憲判決を報じた読売新聞9月5日付トップ記事のリードは、
「結婚していない男女間の子(婚外子)の遺産相続分を結婚した夫婦の子の半分とした民法の規定について、最高裁大法廷は、4日の決定で、『法の下の平等』を保障した憲法14条に違反し、違憲・無効とする初判断を示した。ただ、過去に決着済みの相続には、今回の判断は適用されないとした。この裁判の決定を受け、政府は規定を削除する民法改正案を秋の臨時国会にも提出する方針を固めた。」
本文では、「審理に参加した14人の裁判官全員一致の意見」だったこと。「1995年の大法廷決定では『法律婚の尊重と、婚外子の保護の目的があり、著しく不合理とはいえない』として規定を合憲としていた」こと。「今回の決定はまず、『立法府のの裁量権を考慮しても、相続格差に合理的な理由がなければ違憲となる』との判断基準を示した。」こと。「その上で、婚外子の出生数が増え、家族形態も多様化し、国民の意識も変化したと指摘。」したこと。「欧米諸国に格差規定を設けている国はなく、国連などから再三、格差是正を勧告されてきた経緯も踏まえ、『家族の中で子を個人として尊重すべきという考えが確立されてきた』と述べた。」こと。そして、「決定は『父母が結婚していないという、子どもにとって選択の余地がないことを理由に不利益を及ぼすことは許されない』と指摘」したことなど伝えた。
この最高裁判決に対する当日の読売社説は、
「日本人の家族観の変化を踏まえた歴史的な違憲判断」と手放しで評価。さらに「近年、婚外子の出生率が増えている。シングルマザーという言葉も定着した。事実婚も珍しくなくなった。婚外子を特別視する風潮は薄れているだろう」とし、最高裁のこの判断を、多くの国民は違和感なく受け止めるのではないか」(政府に対し)「速やかな改正を求めたい。」のだという。
はっきり言って反吐が出るというか、すこぶる付きで違和感たっぷりでしょうがよ。それにしても、「法の下の平等」に反するから違憲だとして、過去の判決と180度反対の判決を出しておいて、同じ口で「混乱を避けるため過去の判決には適用されない」とよくぞぬかしたなと思ったが、他の大新聞はフォローしてないが、各局のTVニュースでは、ほぼ読売が言う通りの判で押したような解説を繰り返するのみだった。
では同じ日の世界日報の社説
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婚外子相続格差/結婚制度危うくする違憲判断
結婚していない男女の間に生まれた子(婚外子)の遺産相続分に関する問題で、最高裁大法廷は現行の民法の規定が「法の下の平等」を保障している憲法に違反するとの判断を下した。民法は婚外子の相続分を結婚している夫婦の子(嫡出子)の半分と定めている。
現行法では嫡出子の半分
2人の婚外子が特別抗告し、7月には大法廷で当事者から意見を聞く弁論が開かれた。最高裁が新たな憲法判断を示す時などは、裁判官15人全員からなる大法廷で審理されるため、「違憲」との判断が下されるとの見方が出ていたが、その通りになった。
だが、結婚制度を尊重する上で、婚外子の相続分を嫡出子の半分とする現行法は極めて妥当な規定だといえる。今回の判断は同制度を危うくするものといわざるを得ない。
婚外子の遺産相続分に関する民法規定に反対する学者らは、婚外子が生じる理由について、極めて稀なケースを説明し、婚外子の相続分が嫡出子の半分になることを人権侵害のように論じている。
しかし、婚外子が生じるケースの大半は、不倫によるものである。もとより、生まれてきた子に責任はないが、そのことにより、嫡出子と婚外子とを全く平等に扱うことは、やはり結婚制度を弱体化することに繋がる。ましてや、国民の代表機関である立法府が、そのような法改正案を出して議論しているわけではないのである。
この問題に関する民法改正論者の中には、選択的夫婦別姓制度もセットで実現しようとしてきた人たちもいる。現行制度は、夫婦が話し合いにより、どちらの姓を選択してもいいことになっている。アンケートでも、結婚による姓の変更が夫婦となったことの自覚を高めるという意見が多い。
その意味でも、今回の判断が今後、結婚制度が弱体化するきっかけとなりかねないと危惧される。
欧米諸国は1960年代以降、相次いで相続の平等化に動いて「差別」を撤廃しているとし、わが国民法の規定が、婚外子に寛容な欧米に比べて旧態依然としたものであるとの批判が行われている。
現行の相続規定は明治時代に導入されたが、当時、欧米の社会ではキリスト教道徳が強く、婚外子への理解は行われなかった。それに比べ、日本の規定は婚外子に配慮したものとみなされてきたのである。
欧米では、すでに婚外子が5割を超える国もある。これは、正式な結婚ではなく事実婚による子供が婚外子とされているのである。結婚制度が崩れ、事実婚カップルでも法律婚夫婦と同様な経済支援を受けられるようになっている。
もはや婚外子への差別自体が成り立たない社会になっており、これと同列視して、日本の規定が「時代遅れ」と批判するのは的外れである。
家族の絆を弱めるな
最近の調査では、若者の法律婚への志向が高くなっていた。今回の最高裁の判断が、家族の絆を弱めないよう対処すべきである。
------------------------------------------------------------------------引用ここまで
これが常識ではないのか。
ちなみに日本会議地方議員連盟の草莽崛起PRIDE OF JAPANさんの同判決に対する見解
http://prideofjapan.blog10.fc2.com/blog-date-20130905.html
これも至極まっとう。
そんな中、週刊新潮9月19日号が「骨肉の争いが美談に化けた『婚外子』最高裁判断の違和感」と題し、4ページにわたって記事を載せた。この骨肉の争いの詳細については読んでゲソっとしてしまうが、本誌を手にとって読まれたい。
以下同記事にある識者のコメントを拾う
「違憲とされた民法の規定は、私から見れば“法律の賢慮”のお手本のような条文だと思うのです。婚姻は届出を出さなければ認めませんよ、という法律婚を尊重する民法の基本を大前提としながら、法律婚の枠外ににいる非嫡出子も保護するため、“ある程度”は手当てをする。しかし、国連に文句を言われ続けて平等原理主義に拘泥した判事たちは、日本的な“大岡裁き”ともいうべき条文を葬り去ってしまった。」(長谷川三千子・埼玉大学名誉教授)
「今回の判断は、現在の家族制度に疑問を持っている人たち、例えば夫婦別姓を認めさせようと頑張っている人たちの活動を勢いづかせることになるでしょう。そして、今までの家族制度を否定するような価値感がどんどん広まってしまうと、例えば、“毎年お盆には墓参りに行く”とか、“先祖を敬う”といった、日本人としてのアイデンティティを形成してきた倫理観が失われてしまう可能性がある。」(百地章・日本大学法学部教授)
「最高裁が今回のような違憲判断を出したとなると、果たして現行法は、一夫一婦制を担保してくれるものなのか。差別だ不平等だと叩かれてきた非嫡出子の相続規定は、立法の段階では、本妻である女性の地位を守るという主旨があったことをどこも報じない。つまり、今回の違憲判決は、本妻たちの地位を危うくするものなのであり、世の女性たち、特に奥様方はもっと反発してもいいのではないでしょうか。」(八木秀次・高崎経済大学教授)
この問題は、“戦後レジーム”の土壌に咲いた徒花といえるのではないか。安倍政権は子宮頸がんワクチン問題のそれとは好対照にこの問題に素早く反応した。しかも民法改正(悪)?という逆方向に。東京五輪招致や、消費税率引き上げで頭がいっぱいだったんですよね~、はいはい。
とまれ、“多くの国民は違和感なく受け止めるのではないか”との同調圧力だけはやめてくれ。
(週刊新潮9月19日号)
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婚外子の相続差別違憲判決ー民法改正は不可避か?
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